積分した不等式にはさみうちの原理をあてはめる(東京都立大2018理学部第1問)

今回は tan に置きかえる置換積分とはさみうちの原理をやる。不等式を積分してはさみうちの原理を利用するよ。少し難しいけど,一つのパターンではあるから習得して。

以下の問いに答えなさい。(東京都立大2018)
(1) $x=\tan\theta$ とおくことにより,定積分 $\displaystyle\int_0^1\cfrac{1}{1+x^2}\space dx$ の値を求めなさい。
(2) $k$ を 0 以上の整数とし,$x$ を実数とする。次の不等式が成り立つことを示しなさい。
$\displaystyle-x^{2k+2}\leqq\cfrac{1}{1+x^2}-\sum_{n=1}^{k+1}(-x^2)^{n-1}\leqq x^{2k+2}$
(3) $\displaystyle\int_0^1\sum_{n=1}^{k+1}(-x^2)^{n-1}\space dx=\sum_{n=1}^{k+1}\cfrac{(-1)^{n-1}}{2n-1}$ であることと,(1)および(2)を利用して,無限級数 $\displaystyle\sum_{n=1}^\infty\cfrac{(-1)^{n-1}}{2n-1}$ の和を求めなさい。

置換積分

(1)から始めます。
$\displaystyle\int_0^1\cfrac{1}{1+x^2}\space dx$
置換積分で解いていきます。今回はあらかじめ,$x=\tan\theta$ が与えられていますが,置換積分の基本の範囲なので,条件が与えられていなくても解けるようになりたいところです。

どういうこときに $\tan$ 使うの?
分母に $1+x^2$ の形が来たとき。三角比の公式 $1+\tan^2x=\cfrac{1}{\cos^2x}$ を使うってのを覚えておく。

$x=\tan\theta$ とおくと
$dx=\cfrac{1}{\cos^2\theta}\space d\theta$

両辺を微分して,$dx$,$d\theta$ を加えるってのが置換積分のルールだった。
左辺は $dx$ だけ?
$(x)’=1$ だから $1\space dx$ ⇒ $dx$ ってなる。1 は書かなくてよい。
もう 1 こ質問。なんで,$dx$ とかつけるんですか?
たとえば,$y=x^2$ の微分って書き方 2 つあって,$y’=2x$ とするか $\cfrac{dy}{dx}=2x$ と書くかだったでしょ?
$\cfrac{dy}{dx}=2x$
$dy=2x\space dx$
みたいに変形できるの。ただし,$dx$ と $dy$ は何かの値を代入できるわけではないってのはちょっとだけ頭の片隅においておく。

置換積分が何をやっているのかについては,【数III積分】置換積分が何をやってるのか分からないので掘り下げて考えてみるを参照。

$x$ の区間を $\theta$ の区間に変換します。
$\def\arraystretch{1.5}\begin{array}{|c|ccc|}\hline x&0&\rightarrow&1\\\hline \theta&0&\rightarrow&\frac{\pi}{4}\\\hline\end{array}$
この計算は,$x=\tan\theta$ を使います。
$0=\tan\theta$ とすると,$\theta=0$
$1=\tan\theta$ とすると,$\theta=\cfrac{\pi}{4}$
ということです。
よって
$\displaystyle\int_0^{\small{\frac{\pi}{4}}}\cfrac{1}{1+\tan^2\theta}\cdot\cfrac{1}{\cos^2\theta}\space d\theta$
公式 $1+\tan^2\theta=\cfrac{1}{\cos^2\theta}$ より
$=\displaystyle\int_0^{\small{\frac{\pi}{4}}}\cfrac{1}{\cfrac{1}{\cos^2\theta}}\cdot\cfrac{1}{\cos^2\theta}\space d\theta$
$=\displaystyle\int_0^{\small{\frac{\pi}{4}}}\cos^2\theta\cdot\cfrac{1}{\cos^2\theta}\space d\theta$
$=\displaystyle\int_0^{\small{\frac{\pi}{4}}}\space d\theta$
$=\Big[\theta\Big]_0^{\small{\frac{\pi}{4}}}$
$=\cfrac{\pi}{4}$ (答え)

等比数列の和

(2)に進みます。

何やらいきなりイミフな式がでてきましたが。
そうね,数列の和を求める $\sum$ の記号があると混乱するかも。でも,式をよく見て。

$(-x^2)^{n-1}$ は,初項 1,公比 $-x^2$ の等比数列です。
その和を求めると,公式より
$\displaystyle\sum_{n=1}^{k+1}(-x^2)^{n-1}=\cfrac{1\cdot\{(-x^2)^{k+1}-1\}}{-x^2-1}$
$=\cfrac{1-(-x^2)^{k+1}}{1+x^2}$
よって,不等式のまん中の部分は
$\displaystyle\cfrac{1}{1+x^2}-\sum_{n=1}^{k+1}(-x^2)^{n-1}$
$=\cfrac{1}{1+x^2}-\cfrac{1-(-x^2)^{k+1}}{1+x^2}$
$=\cfrac{(-x^2)^{k+1}}{1+x^2}$
この式は,$k$ の値によって,正の数になるか負の数になるかが分かれます。
$(-x^2)^{k+1}=(-1)^{k+1}\cdot(x^2)^{k+1}$ だから

(i) $k$ が奇数のとき
$k+1$ は偶数になるので,$(-1)^{k+1}$ は 1 になります。
$(-1)^2=1$,$(-1)^4=1$ …となる。
$(-x^2)^{k+1}=(x^2)^{k+1}=x^{2k+2}$

(ii) $k$ が偶数のとき
$k+1$ は奇数になるので,$(-1)^{k+1}$ は $-1$ になります。
今度は,$(-1)^3=-1$,$(-1)^5=-1$ だよね。
$(-x^2)^{k+1}=-(x^2)^{k+1}=-x^{2k+2}$
これをもとに,$\cfrac{(-x^2)^{k+1}}{1+x^2}$ を考えると
$1+x^2$ は $x$ の値に関係なく正の数となるので

$k$ が奇数のとき
$(-x^2)^{k+1}=x^{2k+2}$ より
$\cfrac{(-x^2)^{k+1}}{1+x^2}\leqq x^{2k+2}$ ・・・①

これは,$2=2$ なら $\cfrac{2}{3}\leqq2$ が成り立つよね,っていうことを言ってるの。

$k$ が偶数のとき
$(-x^2)^{k+1}=-x^{2k+2}$ より
$\cfrac{(-x^2)^{k+1}}{1+x^2}\geqq-x^{2k+2}$ ・・・②

①と②を合わせて
$\displaystyle-x^{2k+2}\leqq\cfrac{1}{1+x^2}-\sum_{n=1}^{k+1}(-x^2)^{n-1}\leqq x^{2k+2}$
(証明終わり)

はさみうちの原理

(3)に進みます。
(2)を利用することを考えると,ここではさみうちの原理を思い出しましょう。

はさみうちの原理って何でしたっけ?
不等式の両サイドの極限を求めてそれが一致したら,不等式の真んなかの極限も決まるっていう理屈。

ただし,(2)の不等式をそのままはさみうちの原理に持ち込むことはできないので,積分します。
たとえば
$-f(x)\leqq g(x)\leqq f(x)$
という不等式があるとき,それを積分して
$\displaystyle\int-f(x)dx\leqq\int g(x)dx\leqq\int f(x)dx$
が成り立ちます。

成り立つの?
成り立つよ。

積分は面積を求めることと同じです。もし,$f(x)>g(x)$ が成り立つなら,それを積分した $\int f(x)>\int g(x)$ も成り立つことは図を見れば明らかでしょう。この関係を利用していきます。
$\displaystyle\int_0^1\Big\{\cfrac{1}{1+x^2}-\sum_{n=1}^{k+1}(-x^2)^{n-1}\space\Big\}dx$
$\displaystyle=\cfrac{\pi}{4}-\sum_{n=1}^{k+1}\cfrac{(-1)^{n-1}}{2n-1}$
また
$\displaystyle\int_0^1x^{2k+2}\space dx=\Big[-\cfrac{1}{2k+3}\cdot x^{2k+3}\Big]_0^1$
$=\cfrac{1}{2k+3}$
さらに
$\displaystyle\int_0^1-x^{2k+2}\space dx=-\cfrac{1}{2k+3}$
よって,不等式は
$\displaystyle\int_0^1-x^{2k+2}dx\leqq\int_0^1\Big\{\cfrac{1}{1+x^2}-\sum_{n=1}^{k+1}(-x^2)^{n-1}\}dx\leqq \int_0^1x^{2k+2}dx$
$\displaystyle-\cfrac{1}{2k+3}\leqq\cfrac{\pi}{4}-\sum_{n=1}^{k+1}\cfrac{(-1)^{n-1}}{2n-1}\leqq\cfrac{1}{2k+3}$
$\displaystyle-\cfrac{1}{2k+3}\leqq\sum_{n=1}^{k+1}\Big\{\cfrac{(-1)^{n-1}}{2n-1}\Big\}-\cfrac{\pi}{4}\leqq\cfrac{1}{2k+3}$
$\displaystyle\cfrac{\pi}{4}-\cfrac{1}{2k+3}\leqq\sum_{n=1}^{k+1}\cfrac{(-1)^{n-1}}{2n-1}\leqq\cfrac{\pi}{4}+\cfrac{1}{2k+3}$

極限を求めると
$\displaystyle\lim_{k\rightarrow\infty}\Big\{\cfrac{\pi}{4}-\cfrac{1}{2k+3}\Big\}=\cfrac{\pi}{4}$
$\displaystyle\lim_{k\rightarrow\infty}\Big\{\cfrac{\pi}{4}+\cfrac{1}{2k+3}\Big\}=\cfrac{\pi}{4}$
はさみうちの原理より
$\displaystyle\sum_{n=1}^{\infty}\cfrac{(-1)^{n-1}}{2n-1}=\cfrac{\pi}{4}$ (答え)