適切な宿題の出し方とは 意外に宿題が多いアメリカの議論

教育に関わる人々にとって、適切な宿題の出し方というのは常に頭を悩ませるものです。また、宿題に対する悩みは先生だけでなく保護者や生徒にとっても同じであることも忘れてはいけません。その一般的な論点は以下のようなものでしょう。

・そもそも宿題を出すべきかどうか。
・適切な宿題の量とはどのくらいか。
・宿題の内容はどのようなものがよいか。

ここではアメリカでの議論を紹介し、適切な宿題の出し方のアイデアを探ってみましょう。

そもそも宿題を出すべきかどうか

アメリカのマインドシフトというメディアが行ったアンケートによれば、宿題に正当性があると感じている人々よりも、それを疑っている人々の方が多いという結果が出ました。特に小学生への宿題については教師も保護者もあまり意義を感じていないようです。小学生の宿題に対する研究によれば、特に小学1年生への宿題は学力を改善する上でほとんど効果がないことが示唆されています。

多くの小学校教師が、小学生がやるべき宿題は読書(日本では音読)だけでよいと考えています。読書を習慣化することの大切さは日本でもアメリカでも共通の認識です。

ある教師は、行うべき演習内容をなるべく授業時間内に済ませ、どうしても終わらない生徒に限って家で行うように指示しているそうです。この教師はクラス全体に一律で宿題を出すことには反対の姿勢です。

しかしながら、高学年になるほど宿題の効果はある程度認められています。さらに、中学や高校に進むと宿題には学力を向上させる上で一定の効果があるという調査結果が示されています。

適切な宿題の量はどのくらいか

アメリカでは近年、宿題の量が増加してきた歴史があります。ミシガン大学が小学生から高校生までを対象にした調査では、1981年から2004年の間に生徒が宿題に費やす時間は2時間38分から3時間58分に増加していました。一方、先進的な教育で知られるフィンランドでは宿題の時間は平均で1時間半です。

さらに、ベネッセの調査から日本の場合を見てみましょう。それによると、日本の小学5、6年生の宿題時間の平均は35分ほどで、高校1、2年生でも40分を少し上回る程度です。アメリカの側からすると、フィンランドや日本は宿題の時間がアメリカよりずっと少ないのに優秀な人材を育てている国として映っており、あまりに量の多い宿題に反対する人々の主張の根拠として取り上げられているのです。

日本の数字もあくまで平均なので、進学校で学んでいる生徒たちの宿題の時間はもっと多く、1時間を超えているでしょう。それでもアメリカに比べればかなり少ない印象です。ある女子生徒はインタビューで「最後に庭で遊んだのがいつだったか覚えていない。」と嘆くほどアメリカの子供たちは宿題に苦しめられているのです。

心理学者のケネス・ゴールドバークは過大な宿題はむしろ生徒の自己肯定感を損なわせるため、大学での学業で失敗しやすくなることを指摘しています。ゴールドバークは大学での成功で必要なのは自信であると述べています。

ゴールドバークは宿題を出す上で3つの事柄を提唱しています。

宿題に期限を設ける。生徒がその宿題を完了できたかどうかにかかわらず期限が来たら終了する。その上で、与えられた時間の中で何ができるかや、時間を効率よく使う方法を生徒と協力して考えること。

強すぎるペナルティは子供の行動を変えない。子供たちを動員し、親が落ち着いて問題に向き合う方が効果的である。

教師と親の権限をお互いに尊重すること。教師は教室を担当するが、親は家を管理する者であり、宿題を含む家庭での行動の決定権は親にある。教師は宿題を出すことで親の決定権に踏み込んでいることを理解すべきである。教師は専門家として行動しているが、宿題については親の暗黙の許可を必要とする。親は必要であればその許可を取り消すことができる。

宿題の内容はどのようなものがよいか

認知科学では、インターリーブと呼ばれる学習方法が推奨されています。これは言いかえれば「振り返り学習」ということです。

宿題などで復習を行うとき、一つの学習単元についてのみの問題を解くよりも、複数の学習単元の内容を混ぜ合わせた課題に取り組む方がテストの結果が良くなることが分かっています。学習内容をいっぺんに復習するのではなく、間隔を開けてちょっとずつ復習すると効果が上がります。これは間隔をあけることで、脳の中から情報が完全に消えてしまう前に刺激を与えられ、情報が長期に保持されるようになるためです。

中高生では定期テストの前には一生懸命勉強しても、テストが終われば勉強しなくなり、せっかく身につけた内容をすべて忘れてしまうことは珍しくありません。小さな単位の宿題を出すことで、間隔を置いて脳に繰り返し刺激を与え、記憶の定着を改善させることができます。また、こうした宿題を与えることでテスト前だけ勉強するのではなく、日常の学習習慣の定着にもつながるのです。

日本の教育現場でも、こうした方法で課題を出している教師の方も多いのではないでしょうか。大切なことは、宿題を出すときに単元の内容をまるごと出すのではなく、小さなユニットに分割して複数の単元を混ぜ合わせて課題として出すことです。課題に目的を持たせることによって、効果の上がらない宿題で生徒に無駄な時間を過ごさせないようにすることが大切です。