教養

がんには伝染するものがある タスマニアデビルの危機と遺伝子の多様性

がんという病気は、人間に限らず生物にとって死をもたらす恐ろしい存在です。がんが他の人間に伝染することはありません。しかし一部の動物ではがんが伝染することが知られており、そのことが人間を含む多くの生物が交配によって子孫を残すことに繋がったのではないかと考える科学者たちがいます。

”ニューメキシコ州のホイップテールはクローンを産む動物の一例である。この小さなトカゲの種はメスだけで構成される。クローンの免疫系では癌細胞が外来細胞として識別されず、癌細胞と戦わないため、癌はクローン間で広がる可能性がある、とマドセン教授は述べた。「各世代で交配する場合は、遺伝子を変更します。がん細胞が個人Aから個人Bに伝搬する場合、個人Bはがん細胞が自分と同じではないことを認識します。しかし、それらがクローンである場合、見分けることはできません。そのため、癌細胞は免疫系によって検出されることなく侵入することができます。」”

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クローンを産む動物

ホイップテールはメスだけで子孫を残すことができる。

クローンとは、ある生物の個体の遺伝子とまったく同じ遺伝子を持つ生物のことです。人間は男女の交配によって子孫を残すので、その子供の遺伝子は親の遺伝子をかけ合わせたものであり、親の遺伝子とは異なっています。一方で、自分と全く同じ遺伝子を持つ子孫を残す生物もいます。その代表例は植物です。植物は無性生殖によって子孫を残すことができます。また、植物は花を咲かせ受粉することによって交配することもできるので、有性生殖も行えます。つまり、植物はハイブリッド仕様になっていて、状況に応じて交配相手がいてもいなくても子孫を残せるのです。

植物が交配しないまま子孫を残した場合、その子孫はクローンになります。例えば、畑のジャガイモは収穫したものを再び植えれば芽が出て新たにたくさんのジャガイモができます。そしてそのジャガイモを畑に植えればまた新しいジャガイモができます。この時、それぞれのジャガイモは遺伝子がまったく同一の存在であり、全てクローンとなります。

また、クローンを産む生物は植物だけではありません。上に述べたホイップテールというトカゲは交配なしに子孫を残すことができます。種類は少ないものの、動物でもクローンを産む場合があります。

なぜこうした動物がクローンを産むのかははっきりしていませんが、その種がオスとメスで構成される場合、個体の半数は子孫を残すことができないことになります。つまり子孫を残すことができるメスだけが存在する方が、限られたエサから多く子孫を産むことができるのでより効率が良いと考えられるのです。

しかし、クローンを産むことには欠点もあります。今日、多くの動物がオスとメスの交配によって遺伝子の多様性を保つ戦略を採用している原因は伝染性のがんにあると主張する人々がいます。

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伝染性のガンという病気

一般的にがんという病気は体内で日々行われている細胞分裂のコピーミスによって起こります。細胞分裂時のコピーミスはどんな人でも常に起こっているのですが、その中でも稀に無限増殖を起こし、全身の器官に入り込んで正常な細胞の働きを阻害するものが生まれることがあります。それががん細胞です。

通常、がん細胞が他人に感染することはありません。臓器移植手術でも問題になるように、他人の細胞が入り込むと、それは異物として免疫細胞によって攻撃されるからです。

しかし、がんの中には伝染性のものがあり、個体同士の接触によってがん細胞が他の個体に入り込み増殖するケースがあります。ただし、人間にはそうした種類のがんは無く、一部の生物に限られています。

タスマニアデビルは伝染性のがんによって絶滅の危機にある。

一つの事例がタスマニアデビルです。タスマニアデビルはオーストリアのタスマニア島に住む有袋類ですが、1996年にデビル顔面腫瘍性疾患(DFTD)という伝染性のがんが発生し、その後タスマニアデビルの個体数は減少し続け、絶滅が危惧されています。

タスマニアデビルに伝染性のがんが広がったのは、隔離された島の環境で遺伝子の多様性が損なわれたためであると考えられています。タスマニアデビルがエサを巡ってお互いにケンカをしたときなどに接触し、がん細胞が相手の体内に入り込みます。しかし、免疫細胞は侵入したがん細胞の遺伝子が自身のものと非常に似通っているためにそれを異物して認識せず、がん細胞が増殖していくのです。タスマニアデビルの絶滅については回避できる可能性が残されていますが、依然として予断を許さない状況であることに変わりはないようです。

がんは非常に古くからある病気で、恐らく地球上に多細胞生物が出現した時点で存在していたと考えた方が自然かもしれません。現在の多くの動物は交配によって遺伝子の多様性を保っているため、がんの感染を心配する必要はありませんが、クローンを産む生物や遺伝子の多様性が極度に乏しい生物種においてがんは感染しうる病気なのです。そのため、がんの感染というリスクこそが、今日の生物の多くがオスとメスという性別を持ち、交配によって子孫を残すようになった理由であると考える科学者がいるのです。

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