単独行動と集団行動を使い分けるアカシカ 動物は必要がない限りあえて集団行動をとったりはしない

北アメリカ大陸にはアカシカが生息しており、英語でエルク(elk)と呼ばれています。通常アカシカのオスは単独で生活するのですが、不思議なことに繁殖期が終わるとそれまでライバルだったオス同士が集まって群れを作る習性があるそうです。

”雪の降らない期間の大半はオスのアカシカは体を強くし捕食者を避けるためにその物静かで孤独な生活スタイルの頼りながら、単独で歩き回り必要な若葉を探し求める。しかし繁殖期が終わると、オスたちは冬の間身を守るために集まって大きな集団を作る。繁殖期で疲れ果てたオスは丸々と肥えたメスの集団の中では標的にされやすく、角のせいで捕食者に発見されやすいのだ。(麻布大)”

単独と集団を使い分けるオスのアカシカ

オスのアカシカは見事なほど大きな角を持つ

エルクという単語は二種類の異なった動物を指しています。やっかいなことに、もともとユーラシア大陸に住むヘラジカのことをエルクと呼んでいたのですが、北アメリカ大陸のアカシカという別な種をアメリカ人が間違ってエルクと呼ぶようになったため、同じ単語でも場所によってそれが指す動物が異なるという結果になったのです。

アメリカに住むアカシカは人類がベーリング海峡を渡ってアメリカ大陸に住み始める以前から生息しており、その数は 1000 万頭を超えていたのではないかと推測されています。しかし、人間が農地を開発し毛皮や食肉を目的として狩猟を続けた結果、その数は激減しています。かつては大陸中に住んでいたアカシカも今ではアメリカ合衆国の12の州に存在しているのみです。

アカシカの天敵は主にオオカミやピューマです。通常ならば草食動物はこうした天敵から身を守るために群れを作るのですが、オスのアカシカはあまり群れを作らず単独で行動します。オスのアカシカは大きな角を持ち、単独で身を守ります。

この角は繁殖期にライバルのオスを押しのけ、メスと繁殖するのに役立ちます。一方で繁殖期はオスにとって過酷な生存競争を強いる時期でもあり、この間にオスの体重は大きく減少し、やがて繁殖期が終わるとオスの大きな角は抜け落ちてしまいます。

こうしてひ弱になって単独で身を守ることが難しくなったオスたちは、かつてのライバル同士で手を結んで群れを作り、お互いの身を守るようになります。種の保存のための賢い知恵とも言えるでしょうが、裏を返せば生物は必要に迫られない限りあえて集団を形成したりなどしないということを示す一つの事例とも言えるのかもしれません。

人々の生活と結びつくアカシカ

アカシカはアメリカの先住民族であるネイティヴ・アメリカンの人々にとっても重要な存在でした。単に毛皮や食肉としてだけでなく、文化として重要な役割を担っていたのです。写真の右側の女性の衣服に並べられているのはアカシカの歯です。歯はアカシカの中でも最も腐食しにくく最後まで残ることから、長寿を意味するシンボルとして用いられていました。現代でもアカシカのオスの抜け落ちた立派な角は鑑賞物として取引の対象とされています。こうして大昔から現代に至るまで、アカシカはアメリカ・カナダの人々の生活に深く根付いた存在となっているのです。