数学が苦手な人は損をしてでもやりたくない 実証実験の結果

数学が苦手な人は当然ながら数学の勉強に積極的に取り組もうとしません。しかし、数学を避けることによって、その人が将来STEM分野に進む可能性は少なくなり、収入の高い仕事に就くための選択肢を奪うことにつながります。

そこで研究者は、被験者が難しい数学の問題に取り組むほど高い報酬が得られるという実験を行い、それに対して人々がどう行動するかを調べました。

”これらの結果は、数学に対して不安を持つ個人が高い報酬が与えられた場合でも、数学でより大きなレベルの努力をするの避ける選択をする事を示し、数学固有の努力回避仮説の強力な証拠をもたらしている。”

数学が苦手な人は損をすると分かっていても数学を回避する

実験では、被験者は様々な難易度の数学の問題と英単語の問題を選択して解いていきます。また、問題を解く前にその問題が数学か英単語か、また問題の難易度とそれを解くことによって得られる報酬の額(2セントから6セント)が書かれたカードを2枚見せられ、被験者はどちらかを選択することになります。

利益を最大にしたいならば、難しい問題を回避して簡単な問題を確実に正解していく戦略も考えられますが、研究者は問題の正答率から調整を行い、難しい問題にチャレンジした方が期待値が高くなるように設定しました。期待値とは、実験を何度も繰り返した場合に予想される平均的な報酬の額ということです。従って、被験者は例え正答率が低くても難易度の高い問題にチャレンジし続けた方が長い目で見ればより多くの利益を得られるようになっています。

しかし、こうした条件にも関わらず、実験では数学に不安を抱えている人ほど難易度の高い数学の問題を回避する傾向があることが分かりました。反対に、これらの人でも難易度の高い英単語問題ならば回避せずにチャレンジしました。こうして実験では、数学に不安を抱える人は数学に限って難易度の高い問題を回避する傾向があることを実証されました。

あえて不合理な道に進む人間の心理

なぜ数学に不安を抱える人々は損をすることが分かっていても数学を回避するのか、この実験だけで結論を出すことはできません。考えられる理由の一つは、その人が数学に取り組むことに伴う恐怖を回避したいと思っている可能性です。つまり、合理的選択ではなく感情的な選択をしているということです。もう一つは、数学を身につけるために必要な努力が割に合わないと判断している可能性です。数学が苦手な人は、自分は他人よりももっと多くの努力をしないと他の人に追いつけないと考えています。つまり、費用対効果の面で不利な立場にあるので、損得のつり合いが取れない作業は回避して他のことで頑張った方がましだと考えているのかもしれません。

この実験から分かることは、数学に苦手意識のある人は損をすることが分かっている状況でも数学をやりたがらない、という以上ではありませんが、苦手意識がその人に不利な条件を選択させているというのならば、それを克服するための方法を模索することが大切だと言えるでしょう。