素足で歩く新しいオフィスのカタチ シリコンバレーに置かれたのは懐かしい下駄箱

20世紀を通じて、オフィスでは正しい服装をすることが常に求められてきました。特に法律、金融などの世界では現在でも、Yシャツ・ネクタイ・ジャケットを着用することが強く求められています。1950年代の頃には、外出するときに帽子をかぶることも欠かせませんでした。また、女性はシルクのブラウスとウール製のジャケット、スカートにヒールを履くのが主流でした。

1950年ニューヨーク。男性は帽子をかぶるのがマナーであった。

1960年代に入りケネディ大統領が誕生すると、服装についての考え方にも徐々に変化が起きます。しかし、オフィスの服装が変化し始めるまでには長い時間がかかることになります。女性はスカートからパンツに切り替える人々が増え、男性のスーツはスリムなものに変化していきました。

さらに大きな変化は1990年代のシリコンバレーを発祥とします。コンピューターテクノロジーによって大きく発展したオフィスでは、普段着に近いよりカジュアルな服装が広がりました。そこには、かつての形式を重視するビジネスに対する反発がありました。シリコンバレーの新しい経営者たちは成果主義の考えに基づいて服装に関する規程を無くし、成果が上がっていれば服装は自由で構わないというスタイルを広めました。

下駄箱が出迎えるオフィス

サンフランシスコのスタートアップ企業である Gusto は、オフィスにおける服装の自由の歴史に新たな1ページを加えようとしています。Gusto は中小企業の給与計算や福利厚生を支援するサービスを行う企業です。そして、Gusto にはオフィスの中で靴を履かないという服装規程があります。

GustoのCEO兼共同設立者であるジョジュ・リーブスによると、Gustoは初めはある住宅でビジネスとスタートしたのですが、その家が靴を脱ぐ形式になっていたため、新しいオフィスに移っても靴を脱ぐことが企業の文化として引き継がれることになったようです。会社のオフィスの入口には、日本人ならば学生時代を思い出すような懐かしい下駄箱が設置されています。

 

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若者の価値観に応えることで競争力を生み出す

Gusto がこうした規程を採用する理由は、より創造性の高い技術者を呼び込むためです。一見すると単なる破天荒なアイデアのようにも見えるかもしれませんが、新しい価値観を持つ優秀な若者を企業に取り入れたいと考えるなら、その若者が欲求するものに応えることは、競争の激しいテック業界で生き残る上では理にかなった判断だと言えるでしょう。

逆に言えば、産業構造が固定化した社会ではこうした取り組みは意味が無いのかも知れません。アメリカにおいてもこうしたスタイルで働くことができる人々はあくまで一握りに過ぎず、大多数の人々は日本と同じようにその業種に合わせた服装をしています。固定化した産業は企業・従業員の双方にとって選択肢が乏しくなるのです。

しかしながら、こうした新しい取り組みは間接的に産業全体に影響を与えるでしょう。1950年代の頃、女性のオフィスワーカーはハイヒールを履くことになっていましたが、最近は日本でもハイヒールを強制することに対する問題提起が起こり、各企業が実際に改善を行おうとしています。オフィスで靴を脱ぐことになっている企業が大きな成功を収めれば、そのスタイルはやがて他の産業にも広がっていくのかもしれません。オフィスの服装のスタイルは長い時間をかけて変化してきました。数十年後の未来では、私たちが想像もつかないような服装がオフィスの主流を占めているのかもしれません。