バイキングは和製英語 東京帝国ホテルがそれを命名した理由とは?

バイキング料理と言えば、レストランの昼食やホテルの朝食などでお馴染みですが、人間の食事文化の視点から考えてみると問題点もあるようです。

“これらの大きなレストランは、私たちのもっとも原始的な本能の一つ、つまりできるだけ早くできるだけたくさん食べること、をほとんど即座に満足させる。しかし、今日では、あまりに簡単に十分な食べ物を手に入れることができるため、私たちの本能は私たち自身を困った状況に導くことがある。バイキング式のレストランでは、自分がどれだけ食べているかを簡単に見失ってしまう。大部分の人々は少なくとも3回は自分の皿を埋め尽くすために戻っていき、ある者は8回も戻っていくのだ! (日本大)”

映画のイメージから「バイキング」になった

バイキングは英語では buffet といい、「バフェイ」のように発音します。一般的には all-you-can-eat buffet と表記することが多いです。

テーブルから自由に食べ物や飲み物を取って食べるという、いわゆるバイキング方式が始まったのは 18 世紀のフランスです。その後パリの文化とともにまたたく間にヨーロッパ中に広がりました。もともと buffet はレストランなどで壁に面して設置されている食器棚のことを指します(英語では sideboard )。バイキングは初めはランチとして始まり、次第にディナーとしても提供されるようになりました。また、はじめの頃は使えるのはフォークとスプーンだけで、ナイフは使わないというルールがあったようです。

バイキング方式が日本に伝わったのは戦後の 1957 年のことで、東京帝国ホテルの料理長がヨーロッパを訪れた際にこの新しいスタイルのレストランに触れ、自分のホテルでも始めたのがきっかけです。その当時、「バイキング」という映画が上映されていて、大量の食べ物を荒々しく食べる映像がこのスタイルの食事にぴったりと当てはまるという理由で「バイキング」と命名されることになりました。

英語ではViking は中世のスカンジナビア半島に住んでいた人々(略奪行為でヨーロッパを荒らし回ったことで有名)のことを指すので、日本を訪れた外国人はフランス由来の食事がなぜ日本ではバイキングという名前なのかと不思議に感じるようです。もちろん、海外旅行において訪問先の言語や文化の違いを楽しむというのは旅の醍醐味の一つなので、日本を訪れる外国人にとってもバイキングという言葉は興味深いの日本文化の一つとして捉えられているようです。

バイキング食事文化の視点から見れば

バイキング料理は食事文化の面から言えばあまり好ましいものではないようです。アメリカではバイキング形式のエンタメ化が進み、壁に大画面のスクリーンを設置してひたすらミュージックビデオやスポーツの映像を流しているレストランもあります。こうなるとゆったりと食事をしながら家族や友人と語り合うという文化的な側面は失われ、会話をする必要もなく、単に食欲を満たすための場になってしまっていると上の英文の筆者は嘆くのです。確かに栄養の面から言っても、バイキングは人間の嗜好性を過剰に刺激し、適度なバランスを失わせる方向に人間を誘導する存在なのかもしれません。

そうは言っても毎日バイキングで食事をしている人はまずいないでしょうから、心配しすぎる必要はありません。しかしながら、私たちはバイキング料理を通じて人間の欲望を不必要なレベルに引き出そうとする大量消費のシステムと、人類が食事という行為の中に単に栄養を摂取するという以上の文化的側面を発達させてきた歴史について考えてみるのも大切です。