三角関数の積和の公式の応用(横浜国立大2015理系第5問)
1 個のさいころを 3 回続けて投げ,出た目を順に $a$,$b$,$c$ とする。不等式
$\displaystyle\int_0^\pi(\cos ax)(\cos bx)(\cos cx)\space dx>0$
をみたす確率を求めよ。
積和の公式を利用する
$\cos$ を 3 つかけ算するという形はあまり見たことはないと思いますが,$\cos$ を 2 つかける形なら積を和に直す方法があります。
公式は暗記してもよいのですが,自分で作る方法を覚えた方が数学の応用力がつきます。実際に積を和になおしてみましょう。
加法定理より
$\cos(A+B)=\cos A\cos B-\sin A\sin B$ ・・・①
$\cos(A-B)=\cos A\cos B+\sin A\sin B$ ・・・②
このように式を 2 個用意して,いらない部分を消します。
①+②
$\cos(A+B)+\cos(A-B)=2\cos A\cos B$
$\cfrac{1}{2}\{\cos(A+B)+\cos(A-B)=\cos A\cos B$
こうして積を和になおすことができました。
これを問題の式にあてはめていきましょう。
$(\cos ax)(\cos bx)(\cos cx)$
$=\cfrac{1}{2}\{\cos(a+b)x+\cos(a-b)x\}\cos cx$
$=\cfrac{1}{2}\{(\cos(a+b)x)(\cos cx)+(\cos(a-b)x)(\cos cx)\}$
さらに積を和になおしていきます。
$=\cfrac{1}{4}\{\cos(a+b+c)x+\cos(a+b-c)x+\cos(a-b+c)x+\cos(a-b-b)x\}$
$\displaystyle\cfrac{1}{4}\int_0^\pi\cos(a+b+c)x+\cos(a+b-c)x+\cos(a-b+c)x+\cos(a-b-c)x\space dx$
$=\cfrac{1}{4}\Big[\cfrac{\sin(a+b+c)}{a+b+c}\space x+\cfrac{\sin(a+b-c)}{a+b-c}\space x+\cfrac{\sin(a-b+c)}{a-b+c}\space x+\cfrac{\sin(a-b-c)}{a-b-c}\space x\Big]_0^\pi$
積分が成り立たない場合を考える
$a,b,c$ はさいころの目の値なので,$a+b-c$,$a-b+c$,$a-b-c$ は組み合わせによっては 0 になることがあります。分数の分母が 0 になってしまうと上の計算はできません。
例えば,$a+b-c$ が 0 だったとすると
$\displaystyle\cfrac{1}{4}\int_0^\pi\cos(a+b+c)x+\cos0+\cos(a-b+c)x+\cos(a-b-c)x\space dx$
$\displaystyle\cfrac{1}{4}\int_0^\pi\cos(a+b+c)x+1+\cos(a-b+c)x+\cos(a-b-c)x\space dx$
$=\cfrac{1}{4}\Big[\cfrac{\sin(a+b+c)}{a+b+c}\space x+x+\cfrac{\sin(a-b+c)}{a-b+c}\space x+\cfrac{\sin(a-b-c)}{a-b-c}\space x\Big]_0^\pi$
となるので,$=\cfrac{\pi}{4}$ という答えが出てきます。
つまり,問題文の不等式が成り立つのは,$a+b-c=0$,$a-b+c=0$,$a-b-c=0$ の場合,ということです。
このようになる,さいころの目の組み合わせを考えてみましょう。
$a+b-c=0$ のとき,$c=a+b$ となるので
組み合わせは
(1,1,2),(1,2,3),(2,1,3)
(1,3,4),(2,2,4),(3,1,4)
(1,4,5),(2,3,5),(3,2,5)
(4,1,5),(1,5,6),(2,4,6)
(3,3,6),(4,2,6),(5,1,6)
の 15 通り。
$a-b+c=0$,$a-b-c=0$ のときも同様にそれぞれ 15 通り。したがって,合計 45 通り。
求める確率は
$\cfrac{45}{6^3}=\cfrac{5}{24}$ (答え)
この問題のポイントは,積を和になおすことと,積分したときに式が成り立たない場合があることに気づけるかどうかです。積分の計算だけに意識が向きがちですが,行き詰ったときに別の角度からものごとを見つめ直す姿勢が大切です。
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