自然淘汰は激しい競争ではなく市場のシェアを確保しやすいかどうかに影響される
クジャクのオスはきらびやかな羽を持つことで知られています。この羽はメスを引き付けるために発達したものです。一方で,ヘラジカの持つ大きな角は,捕食者に抵抗するだけでなく異性を奪い合うためも発達しました。生物の進化論を唱えたチャールズ・ダーウィンは,これらを性淘汰という言葉で説明し,これら2つの種類の性淘汰があると考えました。
こうした進化は,オスとメスの数がイコールではない場合に起こると考えられます。上に述べた事例に反するようですが,哺乳類の場合で言えば,案外とメスの方が個体数が多くなる傾向にあるようです。イギリスにあるバース大学のタマーシュ・セーケイ教授は,そもそも哺乳類のメスはオスよりも長生きする傾向があると述べます。ただし,それは全ての哺乳類に共通するとまでは言えません。
教授は,アフリカのバッファローのオスは単独で行動するためライオンに狙われやすいと述べています。その一方で,チーターはトンプソンガゼルのメスをよく殺します。その理由は恐らくメスのトンプソンガゼルの足が遅いからです。
それだけでなく,ウイルスなどの病気もオスとメスの生存率に影響を与えます。今日,猛威を振るっているコロナウィルスにおいて,男女の感染者数に違いはなくとも,死亡率は男性の方が高くなっています。
このようにオスとメスの割合が均等でなくなる背景には多様な原因があり,一概に説明することはできません。しかしながら,その理由が簡単に説明できないものであったとしても,自然界においてオスとメスの個体数がどうしても均等にならないのは確かです。
ライバルが多いほど進化のスピードが上がるわけではない
性淘汰が起こる状況では,オスとメスの割合において偏りが大きい方が性淘汰がより顕著になるはずです。例えば,メスの数が少ない場合,オスはライバルの数が多いので,相手を上回るために体のサイズをより大きくしなければならず,その結果,進化のスピードが上がるはずです。
そこで,セーケイ教授は,は虫類,哺乳類,鳥類の 462 種について,オスとメスの体の大きさの違いを調査しました。
しかしながら,調査の結果は予想と逆でした。実際には,オスに対してメスがより多い状況において,オスの性淘汰がより強く起こっていました。
より重要なのはシェアを独占できるかどうか
なぜそうなるのかについて,セーケイ教授は性淘汰の仮説に誤りがあると考えています。一般的に性淘汰とはライバルの数が多いときに起こるものであると考えられています。しかし,教授は実際の性淘汰とは勝者がすべてを手にするシステムであると考えます。
メスの数が多い状況では,勝者となったオスはそれだけ多くのメスを独占することができます。経済の話に例えるならば,小さな市場で競争するよりも大きな市場で競争する方が大企業による独占が起きやすい,ということかもしれません。競争の結果,得られる利益が大きいほど,負けた側の遺伝子が消えてなくなる確率がより高くなるのです。
この調査結果は私たちが考える自然淘汰の定義を改める機会を与えるものと言えるでしょう。必ずしも生物はライバルが多いほどより進化するというわけではなく,競争の結果得られるリターンの大きさによっても大きく左右されるという新しい観点を提示しています。しかし,それ自体は,言われてみれば当たり前のような話かもしれませんが。
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