意外にも肉中心ではなかった大昔の人類の食生活-オーストラリアの遺跡から発掘された植物性食品

人類が農耕と定住を始める以前の旧石器時代,マンモス狩りに代表されるように人類の主な栄養源は狩猟に依存していたと思われがちです。彼らの残した遺跡では石や動物の骨から作られたナイフや槍,釣り針などが発掘され,そうした遺物が旧石器時代を特徴づけています。

その一方で,彼らが食べていたと思われる植物についての情報はほとんど残されていません。石や動物の骨に比べ植物は分解されやすいため,その痕跡を見つけることは簡単ではありません。

6万5千年前の人々が食べていたもの

クイーンズランド大学のS・アンナ・フローリンらが2020年にネイチャー・コミュニケーションズに発表した論文では,オーストラリア北部のマジェドベベ遺跡でおよそ6万5千年前の古代の人々が食べていたと思われる植物性食品の痕跡が紹介されています。彼らは東南アジアからオーストラリア大陸に初めて移住した人々であると考えられています。

遺跡では,数多くの炭化した植物の化石が発見されました。このことは,植物が火を用いて調理されていたことを示しています。

発見された植物は,果物やナッツ類,植物の根と塊茎,ヤシの茎などです。発見された植物の一つは,日本でも観葉植物として手に入るパンダナスと呼ばれる植物の果実です。現在でも食用として用いられる場合があり,脂肪とタンパク質が豊富です。また,ヤシの茎が食べられるというのは意外に思えるかもしれませんが,現在でも表面の皮をむいたものを生で食べたり鍋でゆでて食べたりしています。ゆでることによって茎に含まれる炭水化物が摂取しやすくなるため,古代の人々も火を起こして茎に長時間熱を加えた上で食用していたと推測されます。

人々は食品を丁寧に処理した上で食べていた

これらの食品を実際に食べることのできる状態にするためには,非常に長い時間のかかる処理が必要です。おそらく,当時の人々は果実や茎の皮をむき火を通すために一日の多く時間を使っていたと思われます。また,植物の固い実は石を使ってすりつぶしていたようです。

植物の塊茎にはでんぷんが多く含まれ,当時の人々にとってブドウ糖の大事な供給源でした。南アフリカの遺跡では,人類が12万年前に塊茎を食べていた証拠が発見されています。人々は塊茎を乾燥させ,石の上ですりつぶし,パンのようなものを作って食べていたのではないかと推測されています。

当時の人々は植物から得られるブドウ糖,貝や魚,その他の動物から得られる脂肪やたんぱく質を組み合わせた,バランスの良い食事をしていたようです。こうした痕跡は,発掘された人骨の歯石から抽出されたものです。

その後,人類はおよそ1万年ほど前には農耕を開始しますが,食事の内容が炭水化物に偏るようになると,むしろ人々の栄養状態は悪化しました。それでも食料の大量生産への道が開いたことで,子どもの数が増え,現代の私たちの社会につながっていくことになるのです。