人間の顔認識能力は意外に低い 身分証の写真は案外役に立っていない

現代社会において、運転免許証やパスポートなど、写真付きの身分証明書は本人であることを確認する上で信頼性の高いものとして見なされています。身元を確認する側の人々は本人の顔と写真を見比べることで、目の前にいる人物が間違いないなく証明書と同一であることを確かめます。しかし実のところ、人間が実際の顔と写真が一致しているかどうかを特定する能力はそれほど高くはないようです。

”例えば2人だけの異なった人物を映した40枚の写真を見せられたとき、参加者はその写真を平均で7人の異なった人物を示したものだと考える傾向がある。また、参加者が2つの写真が同じ人物か2人の異なった人物かを判断しなければならない非常にシンプルな調査では、理想的な状況においても人々は少なくとも試験の10パーセントで間違いをすることを示している。(立教大)”

人間の顔を認識する能力は低い

人間が写真の人物を見極める能力はそれほど高くないようです。

例え日頃からパスポートの写真を確認している空港の職員でさえ、実験をしてみると多くの間違いを犯すことが明らかになっています。その上、パスポートの写真は何年か前のものであることが多いために、写真と目の前にいる本人が本当に同一人物であるかどうかを判断することはなおさら困難な仕事になるのです。しかもそれは職員の勤務年数と関係がないことが実験によって明らかになっています。

また、研究者たちは人の名前を覚える大会で優秀な成績を収めた人物、日本のテレビで言うところの暗記王に依頼して実験を行います。しかし、そうした暗記王でも写真と実際の人物を一致させる実験では多くの間違いをすることが判明しました。記憶力の優れた人だからと言って、人間の顔を識別する能力が高いというわけではないようです。

顔認識の技術開発は発展途上

このように、人間の顔を認識する能力には個人差や経験年数を考慮しても限界があることが分かっています。そして、この能力をどのようにして改良すべきかについては、まだまだ議論の余地があるようです。

認識精度を上げる一つの方法は、当然ながら複数の人間によって判断することです。一人の人間が間違った判断をしても複数の人々の意見を組み合わせることで、精度を向上させることができます。

また、目や鼻、口、ひげなど、特定の箇所に焦点を絞って比較することで認識精度を上げることができるようです。さらに特定の部分と全体の雰囲気を組み合わせる方法も有効です。つまり、細部と全体の多角的な観点から総合的に検討していくことが判断の精度をより確かなものとするで重要であるということです。

例えば、法医学者などの人々は顔を認識する能力が高いようです。その理由ははっきりしていませんが、彼らは細部の特徴と全体の雰囲気を俯瞰して捉える多角的な手法を通じて認識精度を上げていると推測されています。

さらに、特殊な訓練を受けていない人々のためにAIのような機械の助けが重要になってきます。認識精度を上げるために複数の人間による判断が重要なように、人間の判断にAIの判断を加えていくことで精度の向上が見込めます。将来、AIの技術がパスポートの検査を行う職員の手助けをする日がやって来るでしょう。