【数III微分】直線の傾きの違いを利用した不等式の証明(北海道大2020理系第4問)
$\alpha$ を $0<\alpha<1$ を満たす実数とし,$f(x)=\sin\cfrac{\pi x}{2}$ とする。数列 $\{a_n\}$ が
$a_1=\alpha$,$a_{n+1}=f(a_n)$ $(n=1,2,\cdots)$
で定義されるとき,次の問に答えよ。(北海道大2020)
(1) すべての自然数 $n$ に対して,$0<a_n<1$ かつ $a_{n+1}>a_n$ が成り立つことを示せ。
(2) $b_n=\cfrac{1-a_{n+1}}{1-a_n}$ とおくとき,すべての自然数 $n$ に対して,$b_{n+1}<b_n$ が成り立つことを示せ。
(3) $\displaystyle\lim_{n\rightarrow\infty}a_n$ および(2)で定めた $\{b_n\}$ に対して $\displaystyle\lim_{n\rightarrow\infty}b_n$ を求めよ。
帰納法による証明
(1)から始めます。まず,$0<a_n<1$ は帰納法によって証明します。
$0<a_n<1$ ・・・(A) とおく。
[I] $n=1$ のとき
$0<\alpha<1$ より $0<a_1<1$ だから,(A)は成り立つ。
[II] $n=k$ のとき,(A)が成り立つと仮定すると,$n=k+1$ のとき
$a_{k+1}=f(a_k)=\sin\cfrac{\pi a_k}{2}$
(A)が成り立つ,つまり $0<a_n<1$ のとき,$0<\sin\cfrac{\pi a_k}{2}<1$ だから,$0<a_{k+1}<1$ が成り立つ。
以上,[I],[II] より,すべての自然数 $n$ において $0<a_n<1$ が成り立つ。(証明終わり)
直線の傾きをくらべる
次に,$a_{n+1}>a_n$ を証明します。まず,数列の形をつかむところから始めるとよいでしょう。
$a_1=\alpha$
$a_2=f(a_1)=\sin\cfrac{\pi a_1}{2}$
次に $x=t$ とおいて,グラフ上に点 A をつくります。そうすると,点 A は $y=x$ のグラフより上の方にあるので,$t<\sin\cfrac{\pi t}{2}$ の関係が成り立ちます。
したがって,$a_n<\sin\cfrac{\pi a_n}{2}=a_{n+1}$ となって,不等式が成り立つことがわかります。
証明したいのは不等式 $x<\sin\cfrac{\pi x}{2}$ ですが,この式を変形しても証明できそうにありません。
ここで,証明の一つのテクニックを習得しましょう。
直線 OA と直線 AB を比べると,(OAの傾き) > (ABの傾き) の関係になっていることがわかります。
このような状態であれば,点 A は 直線 $y=x$ の上側にあり,$x<f(x)$ が成り立つと言えるのです。
まず,(OAの傾き) > (ABの傾き) を証明していきます。
直線 OA の傾きは $\cfrac{\sin\cfrac{\pi t}{2}}{t}$
直線 AB の傾きは $\cfrac{1-\sin\cfrac{\pi t}{2}}{1-t}$
よって
$\cfrac{\sin\cfrac{\pi t}{2}}{t}>\cfrac{1-\sin\cfrac{\pi t}{2}}{1-t}$
これが成り立つことを示せばよい。
式を変形して
$\cfrac{\sin\cfrac{\pi t}{2}}{t}-\cfrac{1-\sin\cfrac{\pi t}{2}}{1-t}>0$
左辺を整理すると
$=\cfrac{(1-t)\sin\cfrac{\pi t}{2}-t\big(1-\sin\cfrac{\pi t}{2}\big)}{t(1-t)}$
$=\cfrac{\sin\cfrac{\pi t}{2}-t\sin\cfrac{\pi t}{2}-t+t\sin\cfrac{\pi t}{2}}{t(1-t)}$
$=\cfrac{\sin\cfrac{\pi t}{2}-t}{t(1-t)}$
$g(t)=\sin\cfrac{\pi t}{2}-t$ として
$g'(t)=\cfrac{\pi}{2}\cos\cfrac{\pi t}{2}-1$
$\cfrac{\pi}{2}\cos\cfrac{\pi t}{2}-1=0$ のとき
$\cos\cfrac{\pi t}{2}=\cfrac{2}{\pi}$
増減表は
$\def\arraystretch{1.5}\begin{array}{c||c|c|c|c|c|}t&(0)&\cdots&\frac{2}{\pi}&\cdots&(1)\\\hline g'(t)&(+)&+&0&-&(-)\\\hline g(t)&(0)&\nearrow&\text{最大}&\searrow&(0)\end{array}$
よって,$0<t<1$ のとき,$g(t)$ はつねに正の値をとるので
$\cfrac{\sin\cfrac{\pi t}{2}}{t}>\cfrac{1-\sin\cfrac{\pi t}{2}}{1-t}$
は成り立つ。
よって,$x<\sin\cfrac{\pi x}{2}$ である。
したがって,$x<\sin\cfrac{\pi x}{2}$ は
$x<f(x)$
$a_n<a_{n+1}$ (証明終わり)
グラフの形が分からないときは関数の増減を考える
(2)に進みます。
$b_n=\cfrac{1-a_{n+1}}{1-a_n}$
$=\cfrac{1-\sin\cfrac{\pi a_n}{2}}{1-a_n}$
証明したいのは $b_{n+1}<b_n$ だから,$\{b_n\}$ を一つの関数として考え,関数が単調減少であることを示すとよいでしょう。
$a_n=x$,$b_n=h(x)$ とおくと
$h(x)=\cfrac{1-\sin\cfrac{\pi x}{2}}{1-x}$
式を微分します。商の導関数の公式を思い出しましょう。
商の導関数の公式
$\Big\{\cfrac{f(x)}{g(x)}\Big\}’=\cfrac{f'(x)g(x)-f(x)g'(x)}{\{g(x)\}^2}$
$h'(x)=\cfrac{\Big(1-\sin\cfrac{\pi x}{2}\Big)'(1-x)-\Big(1-\sin\cfrac{\pi x}{2}\Big)(1-x)’}{(1-x)^2}$
$=\cfrac{-\cfrac{\pi}{2}\cos\cfrac{\pi x}{2}(1-x)+1-\sin\cfrac{\pi x}{2}}{(1-x)^2}$
$=\cfrac{-\cfrac{\pi}{2}\cos\cfrac{\pi x}{2}+\cfrac{\pi x}{2}\cos\cfrac{\pi x}{2}+1-\sin\cfrac{\pi x}{2}}{(1-x)^2}$
$s(x)=-\cfrac{\pi}{2}\cos\cfrac{\pi x}{2}+\cfrac{\pi x}{2}\cos\cfrac{\pi x}{2}+1-\sin\cfrac{\pi x}{2}$ として
$s'(x)=\cfrac{\pi^2}{4}\sin\cfrac{\pi x}{2}+\Big(\cfrac{\pi x}{2}\Big)’\cos\cfrac{\pi x}{2}+\cfrac{\pi x}{2}\Big(\cos\cfrac{\pi x}{2}\Big)’-\cfrac{\pi}{2}\cos\cfrac{\pi x}{2}$
$=\cfrac{\pi^2}{4}\sin\cfrac{\pi x}{2}+\cfrac{\pi}{2}\cos\cfrac{\pi x}{2}-\cfrac{\pi^2 x}{4}\sin\cfrac{\pi x}{2}-\cfrac{\pi}{2}\cos\cfrac{\pi x}{2}$
$=\cfrac{\pi^2}{4}(1-x)\sin\cfrac{\pi x}{2}$
増減表は
$\def\arraystretch{1.5}\begin{array}{c||c|c|c|}x&(0)&\cdots&(1)\\\hline s'(x)&(+)&+&(+)\\\hline s(x)&1-\frac{\pi}{2}&\nearrow&0\end{array}$
$s(0)=-\cfrac{\pi}{2}\cos0+1=1-\cfrac{\pi}{2}$
$s(1)=-\cfrac{\pi}{2}\cos\cfrac{\pi}{2}+\cfrac{\pi}{2}\cos\cfrac{\pi}{2}+1-\sin\cfrac{\pi}{2}$
$=0$
よって,$h'(x)$ は $0<x<1$ においてつねに負の値となるので,$h(x)$ は $0<x<1$ において単調減少である。
したがって
$b_{n+1}<b_n$ (証明終わり)
はさみうちの原理・微分係数の定義
(3)に進みます。
とは言え,$a_n$ の式から極限に持ち込むことはできそうにないので,$b_n$ の式から考えてみましょう。
$b_n=\cfrac{1-a_{n+1}}{1-a_n}$
$0<a_n<1$ かつ $a_{n+1}>a_n$
$b_{n+1}<b_n$
式を変形して
$1-a_{n+1}=b_n(1-a_n)$
$1-a_n=c_n$ として
$c_{n+1}=b_n\cdot c_n$
$c_2=b_1\cdot c_1$
$c_3=b_2\cdot c_2$
$=b_2\cdot b_1\cdot c_1$
$c_4=b_3\cdot c_3$
$=b_3\cdot b_2\cdot b_1\cdot c_1$
つまり
$c_{n}=c_1\cdot b_1\cdot b_2\cdots b_{n-1}$
ここで,$b_{n+1}<b_n$ だから,$n\geqq2$ のとき,$b_{n}<b_1$ が成り立つ。
よって
$c_{n}=c_1\cdot b_1\cdot b_2\cdots b_{n-1}<c_1\cdot b_1\cdot b_1\cdots b_1 = c_1\cdot {b_1}^{n-1}$ ・・・①
また,$c_n=1-a_n$ であり,$0<a_n<1$ だから
$0<c_n<1$ ・・・②
①,②より
$0<c_n<c_1\cdot{b_1}^{n-1}$ ・・・③
$b_1$ を求めると
$b_1=\cfrac{1-a_2}{1-a_1}$
$=\cfrac{1-\sin\cfrac{\pi a_1}{2}}{1-a_1}$
(1)より $a_1<\sin\cfrac{\pi a_1}{2}$ だから,不等式を変形して
$1-a_1>1-\sin\cfrac{\pi a_1}{2}$
となるので
$b_1<1$
極限を求めると
$\displaystyle\lim_{n\rightarrow\infty}c_1\cdot{b_1}^{n-1}=0$
はさみうちの原理より
$\displaystyle\lim_{n\rightarrow\infty}c_n=0$
$\displaystyle\lim_{n\rightarrow\infty}(1-a_n)=0$
したがって
$\displaystyle\lim_{n\rightarrow\infty}a_n=1$ (答え)
次に,$b_n$ の極限を求めます。
$b_n=\cfrac{1-f(a_n)}{1-a_n}$
ここで,$f(a_n)=\sin\cfrac{\pi a_n}{2}=1$ となるとき,$a_n=1$ だから
$b_n=\cfrac{f(1)-f(a_n)}{1-a_n}$
と表すことができる。
つまり,$b_n$ は直線 AB の傾きとなります。
極限を考えると
$\displaystyle\lim_{n\rightarrow\infty}\cfrac{f(1)-f(a_n)}{1-a_n}$
$\displaystyle=\lim_{n\rightarrow\infty}\cfrac{f(a_n)-f(1)}{a_n-1}$
$a_n=1+h$ とおくと,$n\rightarrow\infty$ のとき $1=1+h$ つまり,$h=0$ となるから
$\displaystyle=\lim_{h\rightarrow0}\cfrac{f(1+h)-f(1)}{1+h-1}$
$\displaystyle=\lim_{h\rightarrow0}\cfrac{f(1+h)-f(1)}{h}$
$=f'(1)$
$=\cos\cfrac{\pi}{2}=0$
したがって
$\displaystyle\lim_{n\rightarrow\infty}b_n=0$ (答え)
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