【数III関数の極限】等式から定数 a,b を求める問題 定義が成り立つ仕組み

[問題] 次の等式が成り立つように,定数 $a$,$b$ の値を定めよ。
$\displaystyle\lim_{x\rightarrow-1}\cfrac{x^2+ax+b}{x+1}=-1$

この問題は極限値が分かっているときに,その極限値になる関数がどういう形かを求めてみようというものです。

こういう等式きたら,次のことが言える。

$\displaystyle\lim_{x\rightarrow-1}(x^2+ax+b)=\lim_{x\rightarrow-1}\Big\{\cfrac{x^2+ax+b}{x+1}\cdot(x+1)\Big\}=-1\cdot0=0$

何やってるのやらさっぱりです。
まず,極限ではかけ算は分解してもいいの。

$\lim\alpha\beta=\lim\alpha\cdot\lim\beta$

$\displaystyle\lim_{x\rightarrow-1}\Big\{\cfrac{x^2+ax+b}{x+1}\cdot(x+1)\Big\}$
$\displaystyle=\lim_{x\rightarrow-1}\cfrac{x^2+ax+b}{x+1}\cdot\lim_{x\rightarrow-1}(x+1)$
$=-1\cdot0=0$

知らなかった。というか忘れてた。

式を見ると,もとの式に分母の式をかけています。今回の定義は分母の式の極限が $0$ になることが前提です。

こうして「極限値が分かっているとき,分母の極限が $0$ なら分子の極限も $0$ になる」という定義ができあがります。

0 のようで 0 でないもの

はいはい質問。それって $\cfrac{0}{0}$ ってことですよね? $0$ の割り算やったらダメって習ったし,$-1$ にならなくないですか?

この疑問を考える前にそもそもの話に戻ります。

極限を習い始めたとき ∞ は決まった数ではなく,あくまで何らかの大きな数を言っているに過ぎないと習いました。そのため,$\cfrac{\infty}{\infty}=1$ とすることはできません。分母の∞と分子の∞は同じものであるとは限らないからです。

不定形でしたね。

同じように極限として求められる $0$ も完全な $0$ でありません。いわば「$0$ にとっても近いけどホントは $0$ じゃない何か」です。

んー,イメージできない。

簡単な例を挙げましょう。

$\displaystyle\lim_{x\rightarrow1}\cfrac{2x(x-1)}{x-1}$

この式はそのまま $x\rightarrow1$ とすると $\cfrac{0}{0}$ となってしまいます。しかし普通は約分するはずです。

$=\displaystyle\lim_{x\rightarrow1}2x=2\cdot1=2$

答えは $2$ です。

このとき,分母と分子の $x-1$ は「$0$ に近い何か」と言えます。しかし,両者は同じものであると断言できるので,約分して消去できるのです。

つまり,こういうことです。この式の分母と分子は $x\rightarrow1$ とするとどちらも $0$ に収束します。しかし,分母と分子の $0$ は実際には同じものではありません。このままでは式の値は正体不明です。そこで「$0$ に近い何か」というあやふやな部分を消去することによって,答えが見えてくるわけです。

単なる 0 ではないから収束する

では,もとの問題に戻りましょう。

$\displaystyle\lim_{x\rightarrow-1}\cfrac{x^2+ax+b}{x+1}=-1$
$\displaystyle\lim_{x\rightarrow-1}x+1=0$ であるから $\displaystyle\lim_{x\rightarrow-1}(x^2+ax+b)=0$

これは公式のようなものとして用いることができます。しかし上で説明した通り,2 つの極限の $0$ は必ずしも同じものではありません。だから分数にして割り算したときに $-1$ になることがあり得るのです。

んー,何となく分かったような分からないような。

例えば,分母の側が $0$ に近づいていくとき,$0.9,0.8,\cdots,0.1,\cdots$ となっていきます。普通なら分母が $0$ に近づいていくなら,分数全体としては ∞ に発散していくはずです。しかしそれが $-1$ に収束するのは,同時に分子のほうが $-0.9,-0.8,\cdots,-0.1,\cdots$ という感じで $0$ に近づいているからです。つまり $\cfrac{-0.0001}{0.0001}=-1$ という感じです。分母が $0$ に近づいていくとき,分子は別の方向から $0$ に近づいていきます。その結果,ある値に収束すると言えるのです。

分子が $0$ 以外だったら発散するわけか。

極限値を利用して不定形を解消する

次に進みます。

$\displaystyle\lim_{x\rightarrow-1}(x^2+ax+b)=0$

先ほど右辺の $0$ は「$0$ に近い何か」と説明しましたが,それを考慮するのは左辺が不定形の場合です。今度は左辺が不定形ではなく,この場合は「$0$ そのもの」としてとらえて構いません。

だから極限の解を求めることと不定形の解消ってほぼイコールの話になってくるわけで。

$\displaystyle\lim_{x\rightarrow-1}(x^2+ax+b)=1-a+b=0$ だから

$1-a+b=0$ ⇔ $b=a-1$

与式に代入すると

$\displaystyle\lim_{x\rightarrow-1}\cfrac{x^2+ax+b}{x+1}$
$=\displaystyle\lim_{x\rightarrow-1}\cfrac{x^2+ax+a-1}{x+1}$

ここで因数分解するけど,中学でやった公式思い出して「足して $a$,かけて $a-1$ 」になる 2 つの数を考える。すると $1$ と $a-1$ がみつかる。

$=\displaystyle\lim_{x\rightarrow-1}\cfrac{(x+1)(x+a-1)}{x+1}$

約分して

$=\displaystyle\lim_{x\rightarrow-1}x+a-1=a-2$

与式 = $-1$ より

$a-2=-1$
$a=1$

よって $b$ は

$b=1-1=0$
$(a,b)=(1,0)$ (答え)

最終的には解法を覚えて対処する問題ですが,はじめに紹介した

$\displaystyle\lim_{x\rightarrow-1}(x^2+ax+b)=\lim_{x\rightarrow-1}\Big\{\cfrac{x^2+ax+b}{x+1}\cdot(x+1)\Big\}=-1\cdot0=0$

の部分とは,結局は極限値が分かっていることを利用して不定形を解消していることを原理として知っておくと良いでしょう。