【数III】部分分数分解を用いた積分・微分係数の定義を用いた極限(北海道大2020理系第5問)
$a$ を正の定数とする。微分可能な関数 $f(x)$ はすべての実数 $x$ に対して次の条件を満たしているとする。
$0<f(x)<1$,$\displaystyle\int_0^x\frac{f'(t)}{\{1-f(t)\}f(t)}\space dt=ax$
さらに,$f(0)=\cfrac{1}{3}$ であるとする。
(1) $f(x)$ を求めよ。
(2) 曲線 $y=f(x)$ と $x$ 軸および 2 直線 $x=0,x=1$ で囲まれる図形の面積 $S(a)$ を求めよ。さらに,$\displaystyle\lim_{a\rightarrow+0}S(a)$ を求めよ。
(北海道大2020)
部分分数分解を用いた積分
(1)から始めます。
$\displaystyle\int_0^x\frac{f'(t)}{\{1-f(t)\}f(t)}\space dt$
分数式の積分は,公式 $\displaystyle\int\cfrac{1}{x}\space dx=\log |x|+C$ より,$\log$ に直していきます。
しかし,この式は分母が複雑で,合成関数を考えながら積分するのはかなり難しそうです。
そこで,分母がかけ算になっているときは,部分分数分解で対処できないかどうか試してみましょう。
いったん,$f(t)=k$ として
$\cfrac{1}{1-k}-\cfrac{1}{k}$
$=\cfrac{k-(1-k)}{(1-k)k}$
$=\cfrac{2k-1}{(1-k)k}$
これでは,もとの式と形が合いません。
$\cfrac{1}{1-k}+\cfrac{1}{k}$
$=\cfrac{k+1-k}{(1-k)k}$
$=\cfrac{1}{(1-k)k}$
足し算にしてみたら,うまくいきました。
$\displaystyle\int_0^x\frac{f'(t)}{\{1-f(t)\}f(t)}\space dt$
$\displaystyle=\int_0^x f'(t)\Big(\cfrac{1}{1-f(t)}+\cfrac{1}{f(t)}\Big)\space dt$
$\displaystyle=\int_0^x \cfrac{f'(t)}{1-f(t)}+\cfrac{f'(t)}{f(t)}\space dt$
ここから積分して $\log$ の式を作ります。式が合成関数であることに注意します。
$\{\log|1-f(t)|\}’=\cfrac{1}{1-f(t)}\{-f'(t)\}$
$\{\log f(t)\}’=\cfrac{1}{f(t)}\cdot f'(t)$
より
$\displaystyle=\Big[-\log|1-f(t)|+\log f(t)\Big]_0^x$
公式 $\log M-\log N=\log\cfrac{M}{N}$ より
$=\Big[\log\cfrac{f(t)}{|1-f(t)|}\Big]_0^x$
問題文より $0<f(x)<1$ だから
$=\Big[\log\cfrac{f(t)}{1-f(t)}\Big]_0^x$
$=\log\cfrac{f(x)}{1-f(x)}-\log\cfrac{f(0)}{1-f(0)}$
問題文より $f(0)=\cfrac{1}{3}$ だから
$=\log\cfrac{f(x)}{1-f(x)}-\log\cfrac{\cfrac{1}{3}}{1-\cfrac{1}{3}}$
$=\log\cfrac{f(x)}{1-f(x)}-\log\cfrac{\space\cfrac{1}{3}\space}{\cfrac{2}{3}}$
$=\log\cfrac{f(x)}{1-f(x)}-\log\cfrac{1}{2}$
$=\log\cfrac{\cfrac{f(x)}{1-f(x)}}{\cfrac{1}{2}}$
$=\log\cfrac{2f(x)}{1-f(x)}=ax$
ここで,対数の定義より,$\log_e a=b$ ならば $e^b=a$ が成り立つことを思い出しましょう。
$e^{ax}=\cfrac{2f(x)}{1-f(x)}$
$e^{ax}\{1-f(x)\}=2f(x)$
$e^{ax}-e^{ax}f(x)=2f(x)$
$e^{ax}f(x)+2f(x)=e^{ax}$
$(e^{ax}+2)f(x)=e^{ax}$
$f(x)=\cfrac{e^{ax}}{e^{ax}+2}$ (答え)
微分係数の定義を用いて極限を求める
(2)に進みます。
問題文より,式は
$\displaystyle S(a)=\int_0^1 f(x)\space dx$
と考えられます。ただし,$f(x)$ が負の値をとるときには,面積も負の値になるので,符号を考える必要がありました。
(1)より,$f(x)=\cfrac{e^{ax}}{e^{ax}+2}$ です。
$e^{ax}$ は指数関数であり,$e$ は 1 より大きな数だから,単調増加します。また,$e^0=1$ だから,$f(x)$ が負の値になることはありません。
よって,式は $\displaystyle S(a)=\int_0^1 f(x)\space dx$ で問題ありません。
$\displaystyle S(a)=\int_0^1 \cfrac{e^{ax}}{e^{ax}+2}\space dx$
$(\log |e^{ax}+2|)’=\cfrac{1}{e^{ax}+2}(e^{ax}+2)’$
$(e^{ax})’=e^{ax}(ax)’=ae^{ax}$ だから
$=\cfrac{ae^{ax}}{e^{ax}+2}$
よって
$S(a)=\Big[\cfrac{1}{a}\log(e^{ax}+2)\Big]_0^1$
$=\cfrac{1}{a}\{\log(e^a+2)-\log(e^0+2)\}$
$=\cfrac{1}{a}\{\log(e^a+2)-\log 3\}$
$=\cfrac{1}{a}\log\cfrac{e^a+2}{3}$ (答え)
次に極限を求めます。
$\displaystyle\lim_{a\rightarrow+0}S(a)=\lim_{a\rightarrow+0}\cfrac{1}{a}\log\cfrac{e^a+2}{3}$
$\cfrac{1}{a}$ が $\cfrac{1}{0}$ になって計算できません。
この式は一般的な方法では不定形が解消できそうにありません。発想を変える必要があります。
これまでに習ってきた極限の式の中に微分係数の定義があります。
$\displaystyle f'(x)=\lim_{h\rightarrow0}\cfrac{f(x+h)-f(x)}{h}$
$h$ を $a$ におきかえると
$\displaystyle f'(x)=\lim_{a\rightarrow+0}\cfrac{f(x+a)-f(x)}{a}$
となります。
さらに $x=0$ とすると
$\displaystyle f'(0)=\lim_{a\rightarrow+0}\cfrac{f(a)-f(0)}{a}$
ここで,$g(a)=\log\cfrac{e^a+2}{3}$ とすると
$\displaystyle g'(0)=\lim_{a\rightarrow+0}\cfrac{g(a)-g(0)}{a}$ ・・・①
さらに
$g(0)=\log\cfrac{e^0+2}{3}=\log 1=0$
また
$g(a)=\log(e^a+2)-\log3$
$g'(a)=\cfrac{1}{e^a+2}\cdot(e^a+2)’-0$
$=\cfrac{e^a}{e^a+2}$
よって
$g'(0)=\cfrac{e^0}{e^0+2}=\cfrac{1}{3}$
これらを①に代入すると
$\displaystyle\lim_{a\rightarrow+0}\cfrac{g(a)-0}{a}=\cfrac{1}{3}$
したがって
$\displaystyle\lim_{a\rightarrow+0}S(a)=\lim_{a\rightarrow+0}\cfrac{1}{a}\log\cfrac{e^a+2}{3}$
$\displaystyle=\lim_{a\rightarrow+0}\cfrac{g(a)}{a}=\cfrac{1}{3}$ (答え)
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