極限が収束する条件から値を求める(横浜国立大2020理系第5問)
$a$ を正の実数とする。$n=1,2,3,\cdots$ に対して,
$\displaystyle I_n=\int_0^1x^{n+a-1}e^{-x}dx$
と定める。次の問いに答えよ。
(1) $n=1,2,3,\cdots$ に対して,$I_n\leqq\cfrac{1}{n+a}$ を示せ。
(2) $n=1,2,3,\cdots$ に対して,$I_{n+1}-(n+a)I_n$ を求めよ。
(3) 極限値 $\displaystyle\lim_{n\rightarrow\infty}nI_n$ を求めよ。
(4) 実数 $b$,$c$ に対して,$J_n=n^3\Big(I_n+\cfrac{b}{n}+\cfrac{c}{n^2}\Big)$ $(n=1,2,3,\cdots)$ と定める。数列 $\{J_n\}$ が収束するとき,次の問いに答えよ。
(ア) $b$ を求めよ。
(イ) $c$ を $a$ の式で表せ。
(ウ) 極限値 $\displaystyle\lim_{n\rightarrow\infty}J_n$ を $a$ の式で表せ。
式を分解して考える
(1)から始めます。
$\displaystyle I_n=\int_0^1x^{n+a-1}e^{-x}dx$
積の式なので,部分積分で解きたいところですが,おそらくどうやってもうまくいかないはずです。そこで,式を分解して考えます。
積分区間が $[0,1]$ であるという前提で考えると,$e^{-x}$ は $\cfrac{1}{e^x}$ だから,$x=0$ のとき $\cfrac{1}{e^0}=1$ であり,$x=1$ のとき $\cfrac{1}{e}$ となります。
もう少し厳密に考えると
$f(x)=e^{-x}$ として
$f'(x)=-e^{-x}=-\cfrac{1}{e^x}$
となるので,区間 $[0,1]$ では微分係数はつねに負の値となります。つまりこれは単純減少の関数です。
したがって,$0<e^{-x}\leqq1$ が成り立ちます。
もう一方の $x^{n+a-1}$ について考えてみましょう。
$\displaystyle\int_0^1x^{n+a-1}dx=\cfrac{1}{n+a}\Big[x^{n+a}\Big]_0^1$
$=\cfrac{1}{n+a}$
これはたまたまかもしれませんが,式を積分することによって $x$ の次数が一つ上がるという性質を理解していれば思いつくはず,とも言えます。
こうして,$x^{n+a-1}$ に 1 より小さい数をかけたものを積分で積み上げたものは $\cfrac{1}{n+a}$ より小さい値になるはずです。
したがって
$I_n\leqq\cfrac{1}{n+a}$ (証明終わり)
部分積分
(2)に進みます。
$I_{n+1}$ は部分積分で値を求めることができます。
$\displaystyle I_{n+1}=\int_0^1x^{n+a}e^{-x}dx$
$\displaystyle=-\Big[x^{n+a}e^{-x}\Big]_0^1+(n+a)\int_0^1x^{n+a-1}e^{-x}dx$
$=-\cfrac{1}{e}+(n+a)I_n$
したがって
$I_{n+1}-(n+a)I_n$
$=-\cfrac{1}{e}+(n+a)I_n-(n+a)I_n$
$=-\cfrac{1}{e}$ (答え)
はさみうちの原理
(3)に進みます。(2)の式を利用しましょう。
$I_{n+1}-(n+a)I_n=-\cfrac{1}{e}$ より
$I_{n+1}-nI_n-aI_n=-\cfrac{1}{e}$
$nI_n=I_{n+1}-aI_n+\cfrac{1}{e}$
ここで,$I_n$ の極限を考えてみます。
$0\leqq I_n\leqq\cfrac{1}{n+a}$
はさみうちの原理より
$\displaystyle\lim_{n\rightarrow\infty}0\leqq\lim_{n\rightarrow\infty}I_n\leqq\lim_{n\rightarrow\infty}\cfrac{1}{n+a}$
$\displaystyle0\leqq\lim_{n\rightarrow\infty}I_n\leqq0$
$\displaystyle\lim_{n\rightarrow\infty}I_n=0$
極限は $n=n+1$ としても同じ結果になります。
$\displaystyle\lim_{n\rightarrow\infty}I_{n+1}=0$
したがって
$\displaystyle\lim_{n\rightarrow\infty}nI_n=\lim_{n\rightarrow\infty}\Big(I_{n+1}-aI_n+\cfrac{1}{e}\Big)$
$=0-0+\cfrac{1}{e}$
$=\cfrac{1}{e}$ (答え)
極限を分解して考える
(4)に進みます。
ここでは,数列の極限の性質を利用します。
$\displaystyle\lim_{n\rightarrow\infty}a_n=\alpha$,$\displaystyle\lim_{n\rightarrow\infty}b_n=\beta$ とする。
$\displaystyle\lim_{n\rightarrow\infty}ka_n=k\alpha$ (ただし,$k$は定数)
$\displaystyle\lim_{n\rightarrow\infty}(a_n+b_n)=\alpha+\beta$
$\displaystyle\lim_{n\rightarrow\infty}(a_n-b_n)=\alpha-\beta$
$\displaystyle\lim_{n\rightarrow\infty}a_nb_n=\alpha\beta$
$\displaystyle\lim_{n\rightarrow\infty}\cfrac{a_n}{b_n}=\cfrac{\alpha}{\beta}$ (ただし,$\beta\not=0$)
ようするに,極限の式は分解して考えても良い,ということです。そして,今回はかけ算がポイントです。
例えば,次の式を考えます。
$\displaystyle\lim_{n\rightarrow\infty}\cfrac{n}{2n+3}$
極限を求めると,分母と分子をともに $n$ で割って
$\displaystyle\lim_{n\rightarrow\infty}\cfrac{1}{2+\cfrac{3}{n}}=\cfrac{1}{2+0}=\cfrac{1}{2}$
式を変形してみましょう。
$\displaystyle\lim_{n\rightarrow\infty}n\cdot\cfrac{1}{2n+3}$
このとき
$\displaystyle\lim_{n\rightarrow\infty}\cfrac{1}{2n+3}=0$
となります。
このことから,$\displaystyle\lim_{n\rightarrow\infty}na_n$ が収束するとき,$\displaystyle\lim_{n\rightarrow\infty}a_n$ は 0 に収束すると言えます。
ここから実際に問題を考えてみましょう。
$J_n=n^3\Big(I_n+\cfrac{b}{n}+\cfrac{c}{n^2}\Big)$
このまま $I_n+\cfrac{b}{n}+\cfrac{c}{n^2}$ の極限を求めると,$b$ が消えてしまうので,式を変形しておきます。
$=n^2\Big(nI_n+b+\cfrac{c}{n}\Big)$
$J_n$ が収束するとき,$\displaystyle\lim_{n\rightarrow\infty}\cfrac{J_n}{n^2}=0$ が成り立つので
$\displaystyle\lim_{n\rightarrow\infty}\Big(nI_n+b+\cfrac{c}{n}\Big)=0$
(3)より,$\displaystyle\lim_{n\rightarrow\infty}nI_n=\cfrac{1}{e}$ だから
$\cfrac{1}{e}+b+0=0$
$b=-\cfrac{1}{e}$ (答え)
同様にして,$c$ を求めます。
$J_n=n(n^2I_n+bn+c)$ と変形して
$J_n=n\Big(n^2I_n-\cfrac{n}{e}+c\Big)$
ここで,(3)より $nI_n=I_{n+1}-aI_n+\cfrac{1}{e}$ だから
$=n\Big(nI_{n+1}-anI_n+\cfrac{n}{e}-\cfrac{n}{e}+c\Big)$
$=n\Big(nI_{n+1}-anI_n+c\Big)$
ここから,$nI_{n+1}-anI_n+c$ の極限を求めますが,$nI_{n+1}$ の極限を考える必要があります。
(3)より $\displaystyle\lim_{n\rightarrow\infty}nI_n=\cfrac{1}{e}$ だから
$\displaystyle\lim_{n\rightarrow\infty}(n+1)I_{n+1}=\cfrac{1}{e}$
が成り立つ。これを変形して
$\displaystyle\lim_{n\rightarrow\infty}(nI_{n+1}+I_{n+1})=\cfrac{1}{e}$
これを分解して考えると,(3)より $\displaystyle\lim_{n\rightarrow\infty}I_{n+1}=0$ だから
$\displaystyle\lim_{n\rightarrow\infty}nI_{n+1}=\cfrac{1}{e}$
したがって
$\displaystyle\lim_{n\rightarrow\infty}\cfrac{J_n}{n}=0$ より
$\displaystyle\lim_{n\rightarrow\infty}(nI_{n+1}-anI_n+c)=0$
$\cfrac{1}{e}-\cfrac{a}{e}+c=0$
$c=\cfrac{a-1}{e}$ (答え)
これを代入すると
$J_n=n\Big(nI_{n+1}-anI_n+\cfrac{a-1}{e}\Big)$
$=n^2I_{n+1}-an^2I_n+\cfrac{a-1}{e}\space n$
となります。
次に,$J_n$ の極限値を求めましょう。上の式は,そのままでは極限値が求められないので,式変形が必要です。
今までやった計算を振り返ると,$I_n$,$I_{n+1}$,$nI_{n}$,$nI_{n+1}$ なら極限値は求められますが,$n^2I_{n+1}$ や $n^2I_n$ だと極限値が分かりません。$n$ が 1 個多いのがやっかいです。そこで(3)で作った
$nI_n=I_{n+1}-aI_n+\cfrac{1}{e}$
という式を振り返ってみると,左辺には $n$ があっても,右辺の $I_{n+1}$ や $I_n$ には $n$ がありません。これを利用すれば 1 個多い $n$ を解消できそうです。
$n=n+1$ として
$(n+1)I_{n+1}=I_{n+2}-aI_{n+1}+\cfrac{1}{e}$
$nI_{n+1}+I_{n+1}=I_{n+2}-aI_{n+1}+\cfrac{1}{e}$
$nI_{n+1}=I_{n+2}-(1+a)I_{n+1}+\cfrac{1}{e}$
両辺に $n$ をかけると
$n^2I_{n+1}=nI_{n+2}-(1+a)nI_{n+1}+\cfrac{n}{e}$
また,$nI_n=I_{n+1}-aI_n+\cfrac{1}{e}$ より
$n^2I_n=nI_{n+1}-anI_n+\cfrac{n}{e}$
これらを,$J_n$ に代入すると
$J_n=nI_{n+2}-(1+a)nI_{n+1}+\cfrac{n}{e}-a\Big(nI_{n+1}-anI_n+\cfrac{n}{e}\Big)+\cfrac{a-1}{e}\space n$
$=nI_{n+2}-(1+a)nI_{n+1}+\cfrac{n}{e}-anI_{n+1}+a^2nI_n-\cfrac{an}{e}+\cfrac{a-1}{e}\space n$
$=nI_{n+2}-(1+a)nI_{n+1}-anI_{n+1}+a^2nI_n$
$=nI_{n+2}-(1+2a)nI_{n+1}+a^2nI_n$
ここで,$nI_{n+2}$ の極限は
$\displaystyle\lim_{n\rightarrow\infty}(n+2)I_{n+2}=\cfrac{1}{e}$
より
$\displaystyle\lim_{n\rightarrow\infty}(nI_{n+2}+2I_{n+2})=\cfrac{1}{e}$
$I_{n+2}$ は 0 に収束するので
$\displaystyle\lim_{n\rightarrow\infty}nI_{n+2}=\cfrac{1}{e}$
これを用いて
$\displaystyle\lim_{n\rightarrow\infty}\{nI_{n+2}-(1+2a)nI_{n+1}+a^2nI_n\}$
$=\cfrac{1}{e}-\cfrac{1+2a}{e}+\cfrac{a^2}{e}$
$=\cfrac{a^2-2a}{e}$
$=\cfrac{a(a-2)}{e}$ (答え)
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