ブラジルの貧困と戦うキャッサバ・ビール 国際的サプライチェーンをあえて避ける意味

キャッサバは南米が原産ですが、現在ではアフリカや東南アジアでも広く栽培されている芋の一種です。キャッサバは食用のほか、バイオエタノールの原料などにも用いられ、最近ではタピオカドリンクの原料としても知られるようになっています。キャッサバは毒抜きが必要になるため食用としては欠点がありますが、乾燥に強くやせた土地でも栽培ができるため、特にアフリカではトウモロコシに次ぐ主食の地位を占めています。一方で東南アジアでは工業用の栽培が多く、中国に輸出された後、エタノールの原料として利用されています。これは言いかえれば、先進国で食用として用いられないキャッサバは商品作物としての価値は低いということを意味してます。

言わば「貧しい人々の食べ物」とも言えるキャッサバですが、ブラジルのマラニャン州では貧しい家族経営の農家の収入源としてキャッサバから製造したビールを販売する動きが広がっています。

”私たちは大規模な多国籍企業の商業的関心を地元のキャッサバのサプライチェーンに価値を加えるという私たちの関心と連携させようとしました。そしてこれまでのところ、それは成功しています。”

あえて国際的サプライチェーンから切り離すという戦略

現在、マラニャン州政府はラテンアメリカ最大のビールメーカーであるアンベブと提携してマグニフィカというビールを製造しています。興味深いのは、アンベブが比較的貧しいマラニャン州の持続可能性に貢献するために社会的責任投資(SRI)としてビールの製造・販売を手がけている点です。

マグニフィカは、マラニャン州でとれたキャッサバのみを使い、マラニャン州でしか販売されていません。あえて国際的サプライチェーンと切り離した形でビジネスが進んでいるのです。

一見、国際的サプライチェーンから切り離すことは不利に思えるかもしれません。せっかくビールを作っているなら、より大きな市場を求めて販売網を広げる努力をしたほうが良さそうです。しかし、市場を広げるとその分リスクも大きくなります。日本におけるタピオカブームのように一時的には流行によって需要が増大するかもしれませんが、いったん流行が過ぎれば市場の要求に応えて生産を拡大した農家は悲惨な目にあうことになります。マグニフィカは、日本で言うところの地産地消にこだわることによって、そうした国際的サプライチェーンのリスクを回避しようとしているのです。

地産地消が持続可能な社会に貢献する

マグニフィカはビールとしては値段が安いため、地元での売り上げは好調のようです。マラニャン州知事は、「ビールの製造が家族的農業経営を無視して行われるなら、それは消費者にとっても意味があっても、(生産者にとっては)意味がない」と述べています。ブラジルの小規模農家で広く栽培されているキャッサバの付加価値を高めることで持続可能な社会を実現しようとしているのです。