枯渇した油田の終活費用は?石油が儲からない産業になりつつある理由

コロナウィルスは経済にも大きな影響を与えようとしています。中国の大幅な需要の減少を受け,世界の石油輸出国は減産による価格の調整を行おうとしていますが,シェアを重視するサウジアラビアが増産に転じ,原油価格は今後下落するとみられています。また投資家は近年石油よりも再生可能エネルギーへの投資を増やしており,20世紀を代表するエネルギーであった石油は今やひっそりとその注目の的から外れようとしています。

油田にも終活がある

しかしそれでも原油を産出することは依然として大きな利益につながっていることに変わりはないのではないかと思うかもしれません。確かに昔に比べ利益が少なくなっているとは言え,石油が産出される間はハッピーな時期を過ごせることは間違いありません。とは言え,その油田もいずれは枯渇する運命にあります。

私たちが必要とする原油は今でも滞りなく私たちのもとに届けられているため,枯渇して原油が産出されなくなった油田の存在を意識することはおそらくないでしょう。しかしながら,そうした採算の取れなくなった油田を抱える地域には油田の終活費用として大きな負担がのしかかっているのです。

大量の枯渇油田を抱えるカナダ

カナダ西部に位置するアルバータ州は20世紀初頭に始まる石油・ガス産業によって大きな経済的恩恵を受けてきた州です。現在,州にはおよそ10万か所の石油の井戸がありますが,産出量は1日10バレルを下回る量でそれほど多くはありません。それらの油田のうち40%以上は利益を生んでいないと見られています。その他にもアルバータ州は生産が行われていない井戸 9 万か所,放棄された井戸 7 万か所を抱えています。

放棄された油田は環境に大きな悪影響を及ぼします。採掘を終えた後も,油田からはメタンや二酸化炭素,ラドン,硫化水素などが放出され続け,それらの物質が周囲の土壌や地下水に漏れ出し環境を汚染しているのです。

2018年,アルバータ州のエネルギー規制当局はこうした油田のクリーンアップにかかる費用は少なくとも1,000億カナダドル(7兆5000万円)に上ると推定しています。

カナダ・アルバータ州の天然ガス採掘現場。今日でも石油・ガスの採掘は州の雇用と経済を支える基幹産業である。

放棄された油田のコストは誰が払うのか

アルバータ州ではこの4年間でおよそ30の石油・ガス会社が破産しており,放棄された油田に蓋をして汚染を除去するコストは最後には納税者が負担することになります。またカナダの法律では破産した会社は浄化に必要な費用の支払いを債権者への支払いに優先することになっているため,投資家が資金を回収できないリスクが高まりつつあります。

石油によって大きな経済的恩恵を受けてきたアルバータ州ですが,気がつけば資金もなく収益性の低いゾンビ企業を数多く抱え,倒産すれば後始末を税金で賄うほかないという厳しい現実を突きつけられているのです。

もともと油田が枯渇した場合に井戸に蓋をして環境を浄化する費用は採掘された原油の売り上げから賄われることが前提とされてきました。しかし世界のエネルギー需要は徐々に石油から離れつつあり,そうした当初の勘定は狂いつつあります。このままいけば,現在原油を産出している井戸もいずれその終活費用を支払う能力を失い,地域住民にとって大きな負担を強いるやっかいな存在に変わる可能性が高いのです。

こうした状況は隣国アメリカでも同様だと考えられています。アメリカは現在世界で最も多くの石油を産出していますが,その油田が枯渇したとき石油会社に井戸を安全に閉じるための費用を支払う能力はありません。こうした現実が投資家から石油をますます遠ざけようとしているのです。