経済の不平等は進化する 格差を生み出すメカニズムのシンプルな説明法

長年、公平性が高いと言われてきた日本でも貧富の格差が広がり続けています。なぜ豊かな者と貧しい者の間に格差が広がってしまうのか、その理由はさまざまであり、格差を容認する人もいれば格差を是正すべきであると主張する人もいます。大学院生のカロライナ・マットソンは、経済格差についてシンプルな説明をしています。

”不平等が悪化するにつれて、経済成長はすべての人の好みを集約するよりむしろ、億万長者の気まぐれを追いかけ始める。そして、ますます不平等な経済は、最終的にそれ自身に耳を傾けるのをやめる。”

経済の不平等が進化する仕組み

マットソンは例えとして、ある企業がものやサービスを売ろうとするときにターゲットとなる顧客を3つに分けます。一つは高価な商品を少数の顧客に売る。二つ目は中程度の価格の商品を中規模の顧客に売る。三つめは低価格の商品を大勢の顧客に売る。

低価格の商品を大勢の顧客に売ることができるのは、広範な販売ルートを確保している一部の企業だけです。また、中程度の価格の商品は中産階級のふところ具合に左右されます。その商品に対する消費者の優先順位によって売れたり売れなかったりします。

では、高価な商品を売る場合はどうでしょうか。この場合、その商品が売れるかどうかは顧客の個人的な嗜好により左右されます。言い換えれば、高価な商品ほど普遍性が乏しくなるのです。例えば、高所得者向けに豪華なスポーツカーを売る場合、その顧客が幸運にもクルマ好きであれば大きな利益を得ることができますが、自動車に興味が無ければ話はそこで終わります。つまり、どの顧客をターゲットにしても簡単に利益を上げる方法はありません。

しかし、ここにもう一つの問題が起こります。価格の安い商品は時間の経過とともに利益率が下がりやすいのです。日本は戦前は綿製品を工場で大量に生産していましたが、そうした工場は今では発展途上国に移動しています。日本で綿製品を作っても利益率が低いため、もっと稼ぎたいのならより価格の高い商品を生産しなければなりません。皮肉なことに、市場にとって普遍性の高い必需品こそ利益が出ないものなのです(石油など資源が偏在しているものはむしろ例外的です)。こうして、私たちが生産する商品は自然と高所得者向けのものに向かっていくことになります。

やがて市場は機能しなくなる

これの何が問題であるか。マットソンはスポーツの記念品の取引を例に説明します。有名なスポーツ選手が獲得したトロフィーなどの記念品はファンの間で高値で取引されます。ある高所得者がその記念品を購入することによって、それを売却した人間は利益を得ます。利益を得た人はそのお金でその他の消費財を購入するので、それによって経済が循環していくことになります。一見するとちゃんと経済として回っているように見えるかもしれませんが、経済が循環するかどうかが高所得者の個人的な嗜好に左右されている点を見落としてはいけません。

だとしても、それは高所得者にとって困ることではないように思えるかもしれません。しかしそうではないでしょう。経済格差に終わりはありません。経済は豊かな者と貧しいものを分けたあと、選ばれし豊かな人々を再び豊かな者と貧しい者に分けていくのです。こうして市場はやがて誰のものでもなくなっていくのです。そのとき、あなたが市場を左右する少数の側に回れる可能性は宝くじに当たるよりも難しくなっているでしょう。

この問題に対するマットソンの提案はなかなか大胆なものです。彼女は、現在の仕組みを変えるために投資できる高所得者を募集しています。経済の仕組みを変えたいのならば、高所得者の嗜好に賭けるのが最も現実的であると彼女は考えているようです。