環境DNAによる新しい生態系調査 ネス湖のネッシーは見つからなくても新しい生物を発見する可能性

ネス湖にネッシーは存在しないというのが今日の一般的な見解ですが、環境DNAという新しい手法を用いてネス湖の生態系を調査している人がいます。ネッシーの存在は怪しげですが、環境DNAによる研究は生態系の調査に革新的な進歩をもたらします。

”環境DNAの研究はそれが1990年代に発明されて以来、生物学者にとって非常に貴重な道具であることが証明されている。ある地域にはもはや存在しないが、その遺伝的痕跡は依然として堆積物に保存されている種の分布を調べるために使用されてきた。”

eDNA とは何か?

私たち人間を含む生物は、周囲に遺伝子をまき散らしながら生きています。例えば、それらは排泄物であったりはがれ落ちた皮ふであったりします。人間の皮ふも新陳代謝によって古い細胞が表面から小さな粉になってはがれ落ちているのです。そうして生物から出された細胞は土壌などの環境に降り積もっていきます。これをeDNA(環境DNA)と呼びます。

DNAの識別技術の発展によって、環境DNAという新たな生態系調査法が確立されつつある。

そして土壌や水の中に堆積したDNAを採取することで、その地域に住む生物の分布などを調べることができます。

これまでその地域に住む生物を調べようとすれば、ワナをしかけるなどの方法でその生物を捕獲する必要がありました。しかし、環境DNAを用いれば土壌を採取したり海や湖から水を採取することによって、そこに住む生物の分布や生息数を特定できるのです。

南西太平洋のニューカレドニア諸島の海水から収集された環境DNAの調査では、これまでその地域に生息しないと考えられていた6種類のサメが生息していることが明らかになりました。このように環境DNAによる調査で、従来の方法では発見されなかった生物を特定できるのです。

また、遺伝子が保存されていれば環境DNAによって古代の生物を調べることもできます。例えばシベリアの永久凍土のように遺伝子の破壊が進みにくい環境では、現代では存在していない生物のDNAを見つけることができます。従来、絶滅した生物は化石によってしか存在を確認できませんでしたが、環境DNAによる調査では化石がなくても古代の生物の存在を確認することができるのです。

ネッシーの存在は今のところ「ノー」

ネス湖では環境DNAを用いた調査が行われていますが、今のところネッシーのような巨大生物につながる遺伝子は発見されていないようです。とは言え、ネス湖には多くのウナギの仲間を含む多様な生態系が存在しています。環境DNA調査によるデータの蓄積が進めば、生態系をより詳しく調べるための技術の発展に貢献することになるでしょう。