不法移民が急増するアメリカ 移民の実態をデータから検証する

移民大国アメリカでは近年、不法移民の問題がクローズアップされるようになり、様々な議論が行われています。不法移民が社会にとって大きな負担となっている一方で、アメリカは歴史的に移民によって成り立ってきた国家であり、移民に対して寛容であるべきだと主張する人々も多くいます。実際のところアメリカの移民を巡る現状とはどのようなものなのでしょうか。調査結果をもとに見てみましょう。

”違法移民の抑制は明らかに望ましい目標です。長年、それを達成するための議会な努力は失敗しており、政策立案者たちは今や完璧な解決策が存在しないことを認識しなければなりません。”

アメリカへの移民は減少傾向

アメリカの報道では議論が不法移民に集中しがちですが、その一方でアメリカへ移住した人々の数は 1997 年に 890 万人のピークを迎えたあと、2017 年には480万人に減少しています。移民のうち、永住者は 27 %を占めます。その他は労働ビザなどの一時的なものになります。

アメリカの人口のうち、外国生まれの人の数は 2017年に 4400 万人に達し、人口の 13.6 %を占めています。1970 年にはその割合は 4.7% だったので、およそ 3 倍に増加していることになります。 このうち、無許可で居住している人々の割合は 23 %で、1000 万人います。外国生まれの人のうち最も人数が多いのがメキシコ人で 1120 万人、割合にして 25 %を占めています。そのほかの大きなグループとしては中国の 2.9 %、インドの 2.6 %、フィリピンの 2.0 %などとなっています。

アメリカへの永住権を証明する文章であるグリーンカードは制限がかけてられており、発行されるまでの待ち時間は平均で 1991 年の約 2 年 10 か月から 2018 年には約 5 年 8 か月に伸びています。永住のための順番待ちの列がどんどん伸びているのが現状です。

2015年ニューヨーク。この日、52か国144人の人々が市民権を獲得した。

また、インド、メキシコ、フィリピン、中国の人々に対しては国籍による制限があり、インド、メキシコ、フィリピンの人々の平均待ち時間は 8 年を超えています

移民した 4400万人の人々は特定の都市部に集中して住んでおり、カルフォルニアに 24 %、テキサスのダラスとヒューストンに 11 %、ニューヨークに 10 % が住んでいます。この 3 つの都市だけで全体の 45 % を占めることになります。

アメリカ人の移民に対する意識調査

調査によれば、アメリカでは移民がその才能や努力を生かすことで国を強くすると考える人々の割合は 1994 年の 31 % から、2019 年の 62 %と、大きく増加しています。反対に、移民が仕事や住居、ヘルスケアを奪うやっかいな存在であると考える人々の割合は 1994 年の 63 % から 2019 年の 28 %で大きく減少しました。その一方で、2018 年の調査では移民を増やすべきだと考えている人の割合は 32 %、現状を維持すべきだと考える人は 38 %、減らすべきだという人は 24 %であり、移民を肯定的に捉える人々が多数派でも、移民のレベルとしては現状を維持すべきだと考えている人が多いことが分かります。

調査によると、アメリカ人のうち、ほとんどの移民は合法的に住んでいることを知っている人々の割合は 45 %で、ほとんどの移民が違法に住んでいると考える人々の割合は 35 %でした。つまり、アメリカ人でも移民について誤解している人々が多くいるということです。また、これは教育の格差も関係しており、大卒の人の方がほとんどの移民が合法であることを知っている割合が高くなっています。

アメリカでは不法移民が急増していますが、その一方でこれらの人々の多くは就労ビザで入国したあと永住権を得られずにそのまま住み続けている人が大多数であり、アメリカへの永住を希望する人々の要求と受け入れの実態が乖離していることが問題の悪化を招いていると考えられています。不法移民を減らすことは当然でも、より実態に見合った改善策を求める声が強まっているのです。