アメリカでも深刻化する空き店舗問題 ポップアップショップに注目が集まる

ニューヨークの主要なストリートにおける空き店舗率はこの10年で平均7.6%から9.0%とわずかながら増加しました。空き店舗率が高い地域は、多くは賃料の高さが原因となっていると推測されています。また、賃貸スペースが小売業にとって広すぎるなど、借り手が求める条件とのミスマッチも理由の一つです。こうした空き店舗の長期的な借り手を見つけるのは容易ではありませんが、一時的に出店を行うポップアップショップによって活用されようとしています。

”ポップアップショップはアメリカの都市全体で急成長している。それらの多くと同様に、バーニーズ内のポップアップショップには、一度に数週間または数か月間製品を販売しようとするデザイナーが交代で出店すると共に、美術展示やエンターテイメントが含まれている。”

アマゾンに押される小売業界

アメリカの経済の中心であるマンハッタンでも空き店舗は目立っています。小売業の売り上げの伸びに比べ家賃の上昇率が高すぎて、中小の小売店が出店できなくなったことが原因であると考えられています。マンハッタンでは小売業に従事する人々の数は3年間で10,000人以上減少しました

もちろん、小売業が低迷した原因にはアマゾンなどのオンラインショッピングが普及したことも挙げられます。地方のショッピングモールではGAPなどのお馴染みの店舗が長年に渡って展開し、それに飽きて新しい刺激を求めようとする消費者がオンラインショッピングに移動しているのです。こうして顧客がショッピングモールの小売店を訪れる機会が減ると、その通り道にあるコーヒーショップに立ち寄る人も減少してしまいます。小売店の不調はその区域全体の活気を奪うことにつながっていくのです。したがって、短期間で展開するポップアップショップが気まぐれに変化する消費者に新しい刺激を与え、顧客をストリートやショッピングモールに呼び戻すための手段として普及しつつあるのです。

2010年ロンドンで展開されたポップアップショップ。モデルのナオミ・キャンベルが登場し若者の雇用や教育のための資金を集める慈善事業に貢献した。

ポップアップショップのメリットとデメリット

ポップアップショップを展開する企業にとって、短期間で運営する店舗は在庫を抱えるリスクを減少させるというメリットがあります。また、ポップアップショップは中小の小売業者だけでなく、ルイヴィトンのような企業が限定品のハンドバッグを販売する手段としても用いられています。

それだけでなく、ネット通販を展開している企業にとっても、ポップアップショップは商品を実際に手に取って体験する機会を設けたり、その場でネーム入りの商品を購入できるなど、実店舗だからこそできるサービスを展開する場にもなっています。ネット通販は効率良く商品を手に入れる点では優れていますが、顧客の個人的な要望に応じた細かなサービスは苦手です。ポップアップショップは仮想と現実のギャップを埋めるのに容易にアクセスできる手段として注目されているのです。

一方、ポップアップショップのデメリットは、安定した雇用が確保されない点です。そのため、既存のあらゆる小売業がポップアップショップに移行できるわけではありません。少なくとも、アフターサービスが必要な商品を期間限定の店舗で販売することはできないでしょう。また、店舗の家主も短期の契約を望まないケースが多く、出店にも制約があります。

ポップアップショップという形態が出現して20年ほどが過ぎようとしていますが、それがストリートやショッピングモールにとって良いものか悪いものかという議論はまだまだ続いていくでしょう。しかしながら、それでもポップアップショップは今もなお普及し続けています。